テイカカズラ Trachelospermum asiaticum

以下の記事全文出典は朝日百科 植物の世界3 種子植物 双子葉類③ 文:近田文弘からです。

テイカカズラ Trachelospermum asiaticum

謡曲に『定家』または『定家葛』という曲がある。藤原定家と愛し合った式子内親王が、霊となって、自分の墓に定家葛のまつわりつく苦しみを、旅の僧に訴えるというものである。

この「定家葛」が、テイカカズラである。別名をマキノカズラという。『古今和歌集』の「み山にはあられふるらしと山なるまさきのかづら色づきにけり」の「まさきのかづら」、また『万葉集』の「石綱(いはつな)のまたをちかへりあをによし奈良の都をまた見なむかも」の「石綱」は、ともにテイカカズラとされる。なお、古くは「絡石」の漢名も使われ、『大和本草(やまとほんぞう)』(1709年)などもこれをテイカカズラに当てているが、中国の「絡石」は別種とされる。

テイカカズラ Trachelospermum asiaticum は木本性のつる植物で、つるの直径は約4センチになる。このつるは付着根を出しながら他の樹木や岩にはい上がって、それらをがんじがらめに締めつけるように成長する。花は初夏に咲き、初め白色だが、やがて淡黄色に変わる性質をもっていて、よい香りがする。本州、四国、九州と朝鮮半島に分布し、葉が大きいものを変種のチョウジカズラ Trachelospermum asiaticum var. majus として区別する。

テイカカズラ属はインドから日本にかけて約30種が知られているが、相互によく似た種が多く、分類はなかなか難しい。

中国や台湾に分布するトウキョウチクトウ Trachelospermum jasminoides が、中国名の「絡石」である。この花の芳香成分を集めたものを「絡石浸膏」という。根、茎、果実は薬用とされ、解熱・強壮薬、腫れ物の痛み止めなどに用いる。茎や葉から出る白い乳液は有毒で、心臓に有害である。茎皮の繊維が強く、縄を編んだり、紙をつくることができる。日本の近畿地方以西に分布するケテイカカズラ Trachelospermum jasminoides var. pubescens は、トウキョウチクトウの変種とされ、葉の裏に毛が多い。

オキナワテイカカズラ Trachelospermum gracilipes var. liukiuense はリュウキュウテイカカズラともいい、琉球諸島に分布し、花が小さい。

近縁のサカキカズラ属は、インドから日本にかけて約20種がある。サカキカズラ Anodendron affine は常緑のつる植物で、千葉県以西の日本からアジアの熱帯に広く分布する。

同じく近縁のゴムカズラ属は、インドから中国に約15種があり、ゴムカズラ Ecdysanthera utilis は、琉球諸島と台湾に分布する。

これらの3属は、種子に長い毛がはえていて、風に乗って飛散する共通の性質がある。テイカカズラ属の学名トラケロスペルムムは、ギリシャ語の「首」と「種子」に由来し、種子の首に毛がはえていることを示しているという説がある。