サイカチはパートナーロス

身近な植物に発見! 種子たちの知恵 多田多恵子著より

上記の本を読んでいたら、サイカチ 皀莢 (そうきょう) Gleditsia japonica についての章節があった。 私はこの木の写真を見ただけで、子どものころの記憶がとても懐かしくよみがえった。 この大木が、子どもの頃住んでいた家の近所にあったからだ。 この木の下を母と一緒に通った時「この木はサイカチと言って昔は洗濯に使ったのよ」と、母が言っていた。 ・・・どの部分を使ったと言っていたのか覚えていないが。

大木の幹には痛そうな大きなトゲがあり、時期が来ると大きなサヤがたくさんぶら下がっていたのを、勤めるようになってからは通勤途中に毎日見ていた。大人が両手を広げてやっと届くくらいの幹の太さだったろうか。 いや、それは勝手な思い込みか。直径どれくらいだったかはっきり思い出せないが、とにかくその木の下で上を見上げても、木の頂上を見ることはできないほど高かった。 それに花がどんなだったかも思い出せない・・・分からない、見たことないかも。 それもそのはず、検索すると花は目立たない色だった。

さて、このサイカチについて、どんなことが前述の本に書かれていたかというと、サイカチが衰退の危機にある原因はパートナーロスではなかろうか、という筆者の仮説だった。パートナーロスとは、動物や鳥に運ばれる植物のタネが、そのパートナーである動物や鳥が先に絶滅してしまう事だそう。そのために植物自体の存在が危うくなってしまうとは何とも気の毒。生きとし生ける物は全て関わり合っているという事なんだね。

筆者の仮説は具体的にこうだ。かつて二万年前まで日本に生息していたとされるナウマン象がサイカチのタネを運ぶパートナーであった、と。ナウマン象がサポニンを含むこの大きなサヤの実を食べ、糞に出たタネが芽を出すことによって種子散布していたのではないか。・・・それはBBCの放送で、アフリカ象がアカシヤのサヤを食べて、糞から出たタネが芽を出していることから気づいたという。アカシヤのサヤはサイカチのそれと酷似し、幹には大きなトゲがあり、サポニンを含むことも同じ。アカシヤのタネはゾウムシにやられるが、糞から出た(胃液を通ってきた)タネは、ゾウムシが駆除されていて発芽できるのだろう(BBCの放送を見て分かった)、という。サイカチの実にもサイカチゾウムシという害虫がつき、そのまま地面に落ちても発芽できないらしいが、ナウマン象に食べられることによってアカシヤのゾウムシ同様に駆除されたのではなかったか、というのが仮説。

そこで筆者は、ナウマン象と一緒にサイカチのタネが出土しないか、という事に期待をかけている。そしてまた、象さんにサイカチのタネをいつか食べてもらいたいのだそうだ。ご自分の推論を検証したいのももちろんあるだろうが、それよりなにより、サイカチが絶滅する前にその回避手段を見つけられたらどんなにいいだろう。どこかの動物園などで協力してもらえないかな~、と思った。